「年長になったら登山に行く!」と、年中の園児たちは一年前ぐらいからワクワクしています。2回目の登山は300m。1回目に登った公園の敷地内にある100mの山とは違って事前に親御さんと一緒にトレッキングシューズを購入したり、電車とバスで2時間近くかけて向かうことを聞いたりする中、年長の園児たちの期待度は日に日に高くなっていました。当日の朝はいつもとは違う緊張した顔つきや勇ましい顔つきが見られました。昨年の年長児も初めての登山の時、嬉しい気持ちと共に「なんかドキドキする!」と言っていました。昨年は行きの電車とバスで、はしゃぎ過ぎて乗り物酔いをし、登山前に休憩するという出来事がありましたので今年はバスや電車の乗り方に細心の注意を払いました。電車の中ではトレッキングシューズの裏側を見せ合ってなぜ登りやすいか考え合ったり、富士山やエベレストの高さについて話し合ったりもしました。「富士山は15歳ぐらいになれば登れるんでしょ?」とやはり今年の園児たちも富士山は特別な存在のようです。

バスを降りてしばらく歩くと、これから登る山が見えました。「あの山のてっぺんまで登るよ!」と言うと、園児たちは急に目を輝かせ「よ~し登ろう!」と元気な声を発しました。
当日は予想以上に熱く、一枚脱いで薄着で登り始めました。念のために持参した保冷剤も役に立ちました。ただ、膝下は昨年や下見の時にはいなかった「ヤマビル」が何匹も何匹も繰り返しズボンにつき、半ズボンでなくてよかったとホッとすることがありました。山道にはドングリが緑色で帽子がついたまま無数に落ちていたり、珍しい木の実や栗まで落ちていたり、園児たちは森の中に引き込まれるように進んでいきました。
しかし、登っても登っても同じような景色が続くと、体力では劣らないはずの女の子の方が先に「もうダメ~ハァ~」と気力が落ち、一方で男の子は頂上を目指すことそのものに充実感を感じるように「ぼくが先頭いくから!」と自らリーダーの役を買って勇ましく先頭を歩き始めました。どちらかというと女の子は“頂上でお弁当を食べたい”ということをモチベーションにしており、男の子は“頂点に立ちたい”ということがモチベーションになっているうようで、男女差として興味深く感じました。(途中で疲れてきた時、女の子には「ここでお弁当食べるより、景色のいいところで食べたいよね」の方が効果があり、男の子には「今日、〇歳で頂上に登るのは君たちが一番かな!」の方が効きますので、お子さんと登る際には是非参考に試してみて下さい)

汗をかきながら頑張って頂上につくと、男の子は頂点に立ったこと自体を喜び、女の子は頂点の価値よりもそこから見える景色に喜んでいました。共に今まで見たことのない、まるで表彰台の上に立ったような笑顔で喜び合い、大きな声で「ヤッホー」を何回も言った後は、「お母さんお弁当ありがとう!」「お婆ちゃん・・・有難う!」など、自分のありのままの感情をお腹から力いっぱい声を出して叫んでいました。普段自分の本当に好きな人に本当の気持ちを恥ずかしくて言えないのは、もしかしたら大人だけでなく子どもも同じなのかなとも感じました。
山頂でお弁当を食べる子どもの表情は、昨年同様、普段はあまり見ることのない、突き抜けたような爽快感を伴っていました。この表情を見れただけでもこの子たちと一緒に来れて本当によかったと感激します。親御さんと一緒に登山をする楽しさと、親御さんから離れて自分たちだけで登山する楽しさや達成感は違うというのが子ども達の表情から感じます。
下山は上りとは違うコースで下りましたが、やはりリーダーシップは男の子がとってくれました。好奇心のまま果敢に先へ先へと進んでいき、「かまきりがいるよ!」「これ、何の実だろう?」と周囲を見る余裕もあり、発見したものに対して仲間にも気づきを促すきっかけを作っていました。
終着地点には登り棒やうんてい等の遊具のある公園がありました。気力的に疲れていた女の子は生き返ったように「遊んでいい?」と走り出し、遊具では再び男の子を圧倒しながら全身で遊び始めました。それでも、翌日の報告会(年中と年少の園児へ登山の感想をお話する会)では「〇〇くんがリーダーになってくれた!」と嬉しそうに男の子を称える女の子の姿がありました。男の子が女の子を大事にしたり、女の子が男の子を尊敬したりする姿は普段あまり見られないので登山を通じて素敵な体験ができたとも思いました。協調心のベースである子ども同士の相互承認や信頼も増したようです。
園に帰った時は、年中の園児たちが目を輝かせながら年長を取り囲み、「どうだった?」と聞いていました。年中の園児たちは「次は自分たちの番!」と今から一年後を楽しみにしているようです。
年長の登山は次回11月の600mの山で最終回となり、“行きたい子”だけが行きます。300mというものがどんなものか身体的によく分かったことと思いますので、「行きたくない」というのも尊重すべき意思です。挑戦心も意欲も十分に育っている段階なので行くも行かないもどちらも温かく受け留めます。

あと数か月で終わる幼児期最後に大切なことは、大人が提示したものに自分の身体的な意思に反して頑張ってついていくことではなく、自分の意思による選択に自信と責任を持つことです。この秋、運動会の組体操でたくさんの重軽傷を負う生徒が出ているという報道があり、悪いのは教職員側に間違いありませんが、自分の意思を表明できない子どもたちにも胸が痛みます。子どもには何の責任もありませんが、大人に無理な要求をされた時に無条件で従うような素地を育んではならないと思っています。そんな時には意地でも拒否する子になって欲しいと願っています。

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