“グリット”の芽生え
GRITと呼ばれる「やり遂げる力(=やり抜く力)」が、アンジェラダックワース氏の著書では人生のあらゆる成功を決める力として提示され、注目されています。私の考察では幼児期の2歳~5歳までにいつでも個人の動機づけが尊重され、没頭できる環境を大切にされて育つと、6歳に近づくにつれて何事も“やり遂げたい”という強い意志がメキメキと表れてきます。

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豆を箸で移すだけの活動(遊び)。生の豆はツルツル滑って意外と根気がいります。こんな単純なもので、何もごほうびもなくても、年長児たちはハァハァ言いながら“やり遂げたい”という意思全開で最後までやります。

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3種類の料理を、約20の工程で、2時間以上かけて完成させるクッキング。手を使い、包丁を使い、火を使い、それをくり返す内容。年長年中の子どもたちは「やり遂げたい」という基盤が出来ていて、周囲で年少の子どもたちがブロックや本を広げて遊んでいても集中力が乱れません。課題をやり遂げることこそが“遊び”になっています。

“技術は後からついてくる”は本当か?
よく「技術は後からついてくるから」「センスが大事」という言葉を聞きます。私も実は幼児教育に関わる前まではそう思っていました。しかし今は逆です。確かに応用技術というものは後からついてきますが、「基礎技術」は後になってから意欲やモチベーションの力に任せてもついてきません。ここでいう基礎技術とは優先順に、①手指の動き、②足もとの動き、③全身の動きです。これが4、5歳ぐらいまでに十分に発達していないとグリット=「やり遂げる力」は生まれません。他の子と比べて言葉が遅くても、行動が遅くても、この基礎技術さえついていれば概ね「グリット」はその芽を出します。
心理学者アンジェラ・ダックワース氏の『GRIT(やり抜く力)』では「情熱」や「モチベーション」の重要性に重きが置かれていますが、これらの心理学的働きだけで「やり遂げる力」を生むことは不可能です。同じく注目されている心理学者キャロル・ドウェック氏の「マインドセット」も重要であることは間違いありませんが、同様に基礎技術の裏付けがなければすぐに萎れてしまいます。「やり遂げる力」をつけるためには、心理学的な面からの働きかけや援助だけでは不十分であり、生物学的な考察に基づいた援助も必要とします。

“state-of-the-art”の語源は?
ご存知の方も多いと思いますが、英語で「最先端の」「最新技術の」と語るとき、“state-of-the-art・・・”という美しい響きの言葉が形容詞的に使われることがよくあります。当たり前のように使われていますが、技術にも使われることに最初はどうして?と不思議に思った方も少なくないんじゃないでしょうか。実は、アートの語源そのものが人間の「技術」を意味するものであり、幅広い分野での人間の「技」を示す言葉として使われていたようです。ジャン・ジャック・ルソーは、1762年刊行の著書で幼少期には“知識を与える前に、諸器官を完成させよ”と感覚器官を成熟に導くべき鍛錬の重要性を言っています。

現代は子どもの知的好奇心ばかり優先して技術的な発達が追いついていないか、または内発的なモチベーションや個々のペースを無視して身体を育てているような環境に偏りがちです。「グリット=やり遂げる力」はこのような方法では培われません。手指や足もとにおいて十分な基礎技術をもち、自信とモチベーションの発達が成熟を迎えた時、グリット(やり遂げる力)は自ずと現れます。


<参考>




やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

アンジェラ・ダックワース
ダイヤモンド社
2016-09-09